法話を聞く・読む / 今月の法話

今月の法話

令和6年5月 No.433
「辛いときは辛いと言っていいんだよ」

 ある日、小学校5年生の娘のテスト結果を見ました。驚くべき結果に、何とかしなければと問題集を買いあさり、翌日娘に渡しました。最初は順調に解くことができ娘も喜んでいたのですが、途中からは問題が難しくなり、苦手なところを私から指摘されることもあってペースダウンしました。しかし成績を上げなければならないことも理解していたようで机には向かっていました。勉強する娘の姿に「よし、よし」と私は安堵していました。

 ところが、ある日の解答用紙を見てびっくりです。

 問題は

 次の□の中に漢字を書きましょう。

 ・を言う。

 娘の解答は

 ・文句を言う。

 正解でしたが、よく見ると解答欄の上のスペースに「おとんに」と書いてありました。つまり「お父さんに文句を言う」と解答していたのです。私は驚くとともに、娘を追い詰めていたことを知らされました。

  えば立て 立てば歩めの 親心

 と言います。我が子の成長を願う親心を表しますが、時に子どもには厳しさとなり、弱音も吐けない状況に追い詰めているのかもしれません。親しき関係であっても、見せられない、語ることもできないものを抱え、そしてそれに気づいてあげることも気づいてもらうこともできずにお互い苦悩していく私たちです。

  覩見諸仏浄土因 国土人天之善悪(正信偈)

 「諸仏の浄土の因、国土人天の善悪を覩見して」とあります。「覩見」とは「隅々まで詳しく見る」ということです。

 苦悩のいのちを奥の奥までご覧になり、声なき声をお聞きくださり、立ち上がってくださったのが南無阿弥陀仏の如来さまでした。「苦悩のあなたに入り満ちて、共に歩む」「辛いときは辛いと言っていいんだよ」と、ご一緒してくださるいのちの親さまです。その親心に抱かれて歩みます。娘に対し「ごめんね」と思いながら、悲しいかな「でもちょっとはがんばろうね」とも思いながら。

福岡県鞍手郡 真教寺 星野 奏眞