法話を聞く・読む / 今月の法話 バックナンバー(No.416)

今月の法話 バックナンバー

令和4年12月 No.416
わりまりめる

 私の母方の祖父は一昨年、お浄土に参りました。小さい頃、祖父のお寺に遊びに行った際の楽しみの一つが、夕方の梵鐘でした。毎夕6時に時報として梵鐘を撞くのが祖父の日課で、遊びに行ったときには私にも撞かせてくれました。自分が撞いた鐘の音が地域に鳴り響いていくと、何だか誇らしいような気持ちになったものです。そんな祖父も晩年は認知症になり、色々なものが分からなくなり、私のことも次第に認識できなくなりました。しかし最後の最後まで忘れずに続けたことがありました。それが夕方の梵鐘です。回数は10回と決まっていましたが、5回で終わったり、20回近く撞くこともありました。しかし近所の方はそれも含めて楽しみにしてくださっていたようです。

 お寺の梵鐘にはよく「南無阿弥陀仏」と刻んであります。お寺の鐘はただの音ではなく「
がおるぞ、安心してまかせよ、あなたは一人じゃないよ」と阿弥陀さまが私へ告げてくださっているよび声でもあるのです。「正覚大音 響流十方」まさに、仏さまのお心が全ての世界に広く響き渡っていく音色です。大晦日にもこの梵鐘が「除夜の鐘」として撞かれます。一年の感謝や懺悔、翌年の抱負、様々な気持ちを抱きながら撞く除夜の鐘ですが、鳴り響く鐘の音はそのままあたたかい阿弥陀さまのよび声です。大きな安心の中、一年が終わっていきます。そして年が明けても響き続ける鐘の音は、今年もまた阿弥陀さまがご一緒の年であることを告げてくれています。

 今月のカレンダー法語は「終わり方が始まり方を決める」です。みなさまは一年をどのように終わっていきますか?テレビを見て終わる一年はテレビを見て始まる一年です。手を合わせて終わる一年は手を合わせて始まる一年です。一年の計は元旦でなく、すでに年末にあるのかもしれません。祖父が最後の最後まで撞き続けた鐘の音は、今も私に「一人じゃないよ」と響き続けています。

広島県三次市 西覚寺 伊川 大慶

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